ゼロエミッションとは?|意味や取り組み事例を解説

  • エネルギーの基礎知識
公開日:2024-03-08
更新日:2024-03-14

環境問題に触れると「ゼロエミッション」という言葉を耳にする機会があるかもしれません。そもそも、ゼロエミッションとは何か気になっている方も多いでしょう。

この記事では、ゼロエミッションの基本的な意味や取り組み事例などを紹介します。

1.ゼロエミッションとは?

ゼロエミッションとは、企業の事業活動や住宅から出される廃棄物をリサイクルなどを通じて、できるだけゼロに近づけていくことを意味する言葉です。エミッション(emission)は「排出」を指し、近年では温室効果ガス( CO₂ )の排出ゼロに向けた取り組みそのものをゼロエミッションというケースもあります。

温室効果ガスは地球の気温が上昇する原因と言われています。UNEP(国連環境計画)の調査によれば、地球の気温は産業革命前の時代と比べて1℃上昇しており、このまま何の対策も行わなければ、2100年までに4℃ほど地球の気温が上昇すると警告しています。

気温が上昇することによって気候パターンが変化し、農作物がうまく育たなくなったり、海の生態系の変化によって海産物が獲れなくなったりするなどの影響があるでしょう。気温上昇は食生活などにも大きな影響を与えるといえます。

2.ゼロエミッションが重視される背景

ゼロエミッションが多くの国や地域で重視されている背景には、環境問題への関心の高まりに加えて、パリ協定が採択されたことによる影響があるといえます。それぞれの点について見ていきましょう。

2-1.環境問題への関心の高まり

日本においては高度経済成長期であった1960~1970年代に、大量生産・大量消費型の社会が構築されたと言われています。特にゴミの排出量は急激に増え、1960~1980年のわずか20年間で3,500万トン増加し、1960年と比較をするとゴミの排出量は約5倍にまで膨らみました。この増加量は、東京ドーム約94杯(1杯あたり約37.3万トン)分もの量に相当します。

2000年代に入ってからはゴミの排出量は少しずつ減ってはいますが、依然として多くの温室効果ガスが発生する原因になっていると見られています。また、温室効果ガスの排出によって地球温暖化や気候変動などの影響から、豪雨や台風などの被害が多く発生している状況です。

人命はもとより、経済面での影響も大きくなっているため、環境問題ひいてはゼロエミッションへの関心が高まっているといえるでしょう。

2-2.パリ協定における世界共通の目標

2015年には、パリ協定で温室効果ガス削減の目標が採択されました。パリ協定を受けて日本も2050年までに、温室効果ガスの排出をゼロにすると宣言しました。

ただし、「排出をゼロにする」という意味は、CO₂をはじめとした温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理などによる吸収量を差し引いた数値を差します。排出量を減らすだけでなく、吸収量と合計して実質ゼロにすることを目指すという意味です。

パリ協定では世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて、2℃未満に保つとともに1.5℃に抑えるための努力を追求する「2℃目標」が掲げられています。また、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量とのバランスを取ること(カーボンニュートラル)などが盛り込まれました。

パリ協定で掲げた目標を達成するために、世界120以上の国と地域でゼロエミッションに向けた取り組みが進められています。

3. ゼロエミッション実現のために必要な取り組みとは?

ゼロエミッションの実現に向けて、2021年には環境省から地域ごとの「地域脱炭素ロードマップ」が公表されています。それぞれの地域で取り組む具体策や流れがまとめられており、脱炭素ロードマップに沿って企業や自治体は取り組みを進めていく必要があります。

「各自治体・事業者に求める8つの重点対策」において、以下のように定められました。

  1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
  2. 地域共生・地域裨益(ひえき)型再エネの立地
  3. 公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
  4. 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
  5. ゼロカーボン・ドライブ(再エネ×EV・PHEV・FCV)
  6. 資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
  7. コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
  8. 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立


出典:環境省「地域脱炭素ロードマップ」

政府は上記の重点対策を各地で企業や自治体に進めてもらうため、ガイドラインの策定や支援体制の整備などを行っていく方針です。

ニチガスでは初期費用ゼロで、ご自宅に太陽光システムを設置できるサービスを提供しています。使用料は定額で、使用期間10年満了後の機器は無償譲渡となります。太陽光システムについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

太陽光発電の仕組み|導入のメリットと注意点を紹介

ニチガスでは、ガスと電気のいいところを組み合わせたハイブリッド給湯器を提供しています。ガス給湯器とヒートポンプ給湯器によって効率良くお湯をつくることができるため、地球にやさしい暮らしの実現に役立ちます。

4. ゼロエミッションの取り組み事例|環境省や自治体、企業の事例

ゼロエミッションの実現には社会的な取り組みが必要であるため、環境省をはじめとした国の機関や各自治体、企業、個々の住宅などにおける取り組みが欠かせません。ここでは、具体的にどのような取り組みを行っているのかを紹介します。

4-1.エコタウン事業

エコタウン事業とは、地域の環境調和型経済社会を築くための基本構想として、位置付けられるものです。各自治体が地域住民や事業者と連携しながら、ゼロエミッションの実現に向けた取り組みを実施する際に、国が支援する仕組みを言います。1997年に創設された制度であり、各地域の特性に合わせてプランが立てられています。
都道府県もしくは政令指定都市が作成したプランについて、環境省と経済産業省の承認を受けた場合、プランを基に実施される事業は総合的、多面的な支援を受けられます。

出典:環境省「エコタウンの歩みと発展」

4-2.ゼロエミッション東京戦略

2015年に東京都は、U20東京名ヤーズ・サミットにおいて、2050年に CO₂の排出実質ゼロを掲げた「ゼロエミッション東京戦略」を宣言しました。世界の大都市の責任として、平均気温の上昇を1.5℃までに抑えるための取り組みを進めています。

特に重点的な対策が必要な3つの分野において、より詳しい内容を取りまとめた「東京都気候変動適応方針」「プラスチック削減プログラム」「ZEV普及プログラム」を策定しています。

出典:東京都環境局「ゼロエミッション東京戦略」

4-3.サントリーホールディングス株式会社

大手飲料メーカーのサントリーホールディングス株式会社では、環境負荷を減らすための取り組みを行っています。商品を製造する工程で必要なエネルギーを有効活用し、副産物・廃棄物をできるだけ排出しないといった方針のもと、生産活動を進めているのが特徴です。

環境配慮型の新工場を新設し、業界トップクラスの省資源・省エネルギーを追求し、脱炭素社会の実現に貢献しようとしています。国内初のCO₂排出実質ゼロ工場を実現するなど、地球温暖化防止に向けて積極的に取り組んでいる姿勢がうかがえます。

出典:サントリーホールディングス「サントリーのエコ活」

4-4.ニチガスグループ(日本瓦斯株式会社)

ニチガスでは、ファミリー層を中心とした既存のガス顧客に向けた電気のセット販売として「でガ割」のサービスを展開しています。2018年11月から東京電力と提携して電気の販売を開始し、2021年9月時点でのガス顧客の電気セット使用率は15.5%です。

ゼロエミッションの実現に貢献するために、ニチガスでは今後、電気セット使用率40%を目標に、ガスと電気のセット販売を進めていく予定です。

出典:ニチガス「ニチガスの取り組み」

5. ゼロエミッション実現に向けた課題とは?

ゼロエミッションを実現するためには、エネルギー源の確保や人々の意識の変化などの課題があるといえます。それぞれの課題について見ていきましょう。

5-1.エネルギー源の確保の課題

ゼロエミッションを実現するためには、たとえば、廃棄物を再使用するときに新たなエネルギーが必要になるといった課題があります。また、再使用する施設などに運搬する際のエネルギーが必要になるといった課題は、まだ解決できていません。

廃棄物を効率的に処理するために再生可能エネルギーを活用したり、ほかの方法で補うことができたりするのかが今後の課題となっています。

5-2.意識や関心への課題

企業や自治体がゼロエミッションに向けた取り組みを進めていくには、市民の理解や関心の高まりが必要になります。内閣府が2020年に実施した「気候変動に関する世論調査」において、「脱炭素社会の実現に向けた取り組みをしたい」と回答した方の割合が9割を超えたのに対し、「どのように取り組めばよいか情報が不足している」「経済的なコストがかかる」といった声なども挙がっています。

企業や自治体が地道な取り組みを続けていくなかで、ゼロエミッションの実現に向けた市民への理解や協力をどの程度得られるかがカギとなります。

出典:内閣府「気候変動に関する世論調査」

6.まとめ:ゼロエミッション実現のための取り組みが多くの国や地域で行われている

大量生産・大量消費の社会から、廃棄物をゼロにする社会に転換していくことがゼロエミッションです。温室効果ガスを削減するための国際的な取り決めであるパリ協定を基に、世界中の多くの国や地域でさまざまな取り組みが行われています。

自治体だけでなく、企業も率先して取り組んでいく必要があり、環境への負荷に配慮した事業活動の展開が望まれています。廃棄物の処理方法や市民の理解などの課題を抱えているため、継続的な取り組みが進められていくことが大事です。

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